第246章 愛 <完結>
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ナナが『幸せか』と問う。
どういう問いだ、それは。
誰かが目の前で死ぬこともない。
誰かを殺すこともない。
――――目の前にお前がいて、お前が愛する娘と戯れて……心底幸せそうに笑ってる。
そして……エイルのあの蒼い目を見ると……まるでその向こうにあいつがいるんじゃないかと思うほど……そっくりな表情をする。俺を観察し、どうしてやろうかと企むあの目だ。
かと思えばナナと同じ声で俺を呼んで、花が咲いたように笑う。それは……まるであの地下街での日々に返ってきたのかと錯覚する。それは俺が生まれて初めて触れた光のような、温かく優しい日々。それがエイルといると、ありありと思い出される。
エイルは、まるで俺が愛したものが凝縮してできたみてぇな存在だなと思う。
だから死んでいった仲間達に、俺は言える。
『ありがとう』と。
『俺たちは今、お前たちのおかげで幸せな今を生きている。』と。
――――そんなことを思う自分自身の変化にも驚くが……こんな分かりきっているであろうことを心配そうに問うお前がやっぱり可愛くて、何よりも愛しくて……思わずふっと、笑ってしまう。
幸せ……なんてもんじゃねぇよ。
この平和で甘ったるい毎日にどっぷり浸かって……戦い方すら忘れちまいそうな穏やかなこの胸の内を、何と表現したらいい?
「――――呆れるくらいに。」
ふっと笑みを零してナナに答えると、ナナはまた……たまらねぇ顔で笑う。
その顔を見ると思う。
――――俺が生きてきた意味は、確かにあった。