第245章 契
「………おかあさん………。」
エイルがたどたどしくも、素晴らしい世界を讃える歌を歌う。――――すると、ナナの指先がぴくりと動いた。
エイルはがばっとナナの顔を覗き込むと、今度こそ我が子の声に答えるように、ゆっくりとナナは目を開けた。
「お、かあ………さ………っ……!」
ナナの顔がゆっくりとエイルの方に向いて、確かにナナは、笑った。
「おかあさんっっっ!!!おかあさぁあん………っ……!」
「――――エ、イ……ル………!」
もう記憶に古いのであろう母の声を久方ぶりに聞いたエイルは、目を大きく大きく見開いた後、大きな声を上げて泣いた。
せっかくの可愛い顔が台無しになるほど顔をぐしゃぐしゃにして……取り繕わない、そのままのガキらしい顔で。
あまりに泣くから、俺が膝を折ってかがんで目を合わせると……、エイルはがばっと抱きついてきて……俺はそれを大事に、優しく抱き上げた。
「お前がめげずに呼んだからだ。良かったな。」
エイルはずび、ずび、と鼻を鳴らしながら小さくこくり、と頷いた。
「――――ナナ。」
ナナを呼ぶと、その目が俺を映す。
「――――おかえり。」