第245章 契
鳥の囀りが聞こえて、儚い三日月は沈み……煌々とした太陽が昇った。隣のベッドがもぞりと動いて、エイルがごろんと寝返りを打つ。
――――それはまるで時計塔の上で居眠りをしていたあの頃のナナと瓜二つで……触れずにいられなかった。
エイルの頬をすりすりと指で撫で、髪に指を通す。
すると、エイルがその瞼を腫らした大きな瞳をゆっくりと開いた。
「――――起きたか。」
「……りばい、さん……おはようござい……ます……。」
「いい朝だぞ。」
「………おかあさん、おきる、かなぁ……。」
エイルは昨日のことを思い出したのか、自分の声は届かないと無力に打ちひしがれたのか……、ベッドに横になったまま、またぽろりと大きな目から涙を零しながら言った。
「――――どうだろうな。」
――――俺もまだ、昨晩のナナの意識が一瞬戻ったことは夢のように感じていた。
けれど確かにその細い指には指輪が通っていて、確かにナナは俺の想いを受け取ったんだと実感する。
――――本当ならあの時、エイルを起こしてやればよかった。……だが、あの一瞬を俺だけのものにしたいと思ってしまった俺は……相当、酷い奴なんだろう。
「声、かけてみるか。」
「…………うん…………。」
エイルはすん、と鼻をすすって涙を拭ってから、起き上がった。ナナの側に寄ると、その手を握ってまた、果敢にも声をかけ続ける。
そしてナナの手を取って、母の手を観察するようにまじまじと見つめた後……人差し指だけを、その小さな手できゅ、と握った。