第245章 契
「保護者とガキでもない、兵士長と部下でもない、ただのリヴァイとナナでもない。俺はお前の番でありたい。俺の生涯をお前にくれてやる。だからお前も寄越せ。お前のこれからを全て。」
ナナはきっとまだ意識が朦朧としているのだろう。
うっすらと開いた瞼の隙間から、その夜空のような瞳をゆっくりと指輪から俺の方へと動かして……溢れ出る感情を堪えられない、といった顔で、ひどく切なそうに一言だけの返事をして……その目じりからまた、光の粒が零れた。
「――――はい……あなた……。」
今度こそ代わりじゃない。
お前が失った穴を埋めるためじゃない。
愛し合い、認め合い、慈しみ、支え合う
俺は確かにお前の片翼として
――――この世界を共に生きよう。
命尽きるまで共に。
愛してるなんて言葉じゃとても足りねぇ。
鳥は双翼でないと羽ばたけない。
まるでその自然の摂理のように当たり前に
いつも側に……最期まで共に。
また目を閉じたナナが眠る向こう側の窓の外に月が覗く。意地悪くあいつが口角を上げた時のような細く儚い月が、俺達を見ている。
「――――悔しいかよ。ザマアミロ。」
ナナの左手をそっと月にかざすと、薬指に光る指輪の黒い石がその光を反射してキラキラと輝いた。
“――――わかってたよ。”
まるであいつの僅かに笑んだ口元に似た月からその声が聞こえた気がして――――……俺はまたナナの手を握って、窓から覗く夜空を背景に眠る、唯一無二の存在が愛し抜いた女を見つめ続けた。
胸が上下して寝息が聞こえる、ただそれだけのことに安堵する。
また明日もきっと……この目が開くと固く信じながら。