第245章 契
たまらずナナに覆いかぶさって、壊さないように……でも強く強く、生きていることを確かめるようにその身体を抱いて、もう一度、キスをした。
「――――よく……戻った………、ナナ………ッ……。」
覆いかぶさったままナナの頬に手をやって、その温度を、鼓動を確かめる。ナナの頬にぽた、ぽた、と落ちるのは……俺の涙か?
――――こんなにも涙が落ちることすら、初めてで……戸惑う。
「――――なき、むし………。」
ナナがふ、と笑いやがる。
誰のせいだ。誰の……。
俺の涙はずっとお前が拭ってきたから……俺は自分の涙の拭い方なんて、知らねぇんだ。
ナナは震える細い腕を何とか動かして、冷たい指で俺の涙をそっと拭った。
その時、左手の薬指に光る指輪に気付いたのか、一瞬目を開いて……じっとその指輪を見つめた。
なんだこれは、いつから?とでも、思って考え込んでいるのだろう。
「――――ナナ。」
「……………?」
そのナナの左手の掌に自分の右手の掌を合わせて………指を絡めて、ぎゅ、と握る。しっかりと握りしめるには……指が、足りねぇが。
その手を大事にとって、眠り姫に相応しく……その薬指に唇を寄せながらナナを見つめる。
「――――たとえこのひと時が夢で……明日お前が死ぬとしても。……お前が天命を全うして、ばあさんになってから死ぬとしても。――――お前の命が終わるまでの時間を、終わる瞬間も……全部俺に寄越せ。」
「――――………。」
「俺がお前に向けるこの想いはもうずっと昔から、変わらない。ただこの関係に名前をつけたいと思ったことはなかった。――――だが、やっとわかった。俺はお前とどうありたいか。」
「――――………。」