第245章 契
―――――――――――――――――――――
眠り姫を眠りから覚ますためのキスなんて……空想めいたことにすら縋る自分に呆れながら、ぼんやりとナナを見つめていた。
するとナナの目の目じりが、一瞬きらりと光った。
その光を弾いたそれを指で確かめると、涙が零れたのだとわかる。
「――――ナナ……?」
どれくらいの時間だったかは、わからない。
数秒だったのかもしれないし、数時間経ってたのかもしれない。
ただナナの涙が零れたのは、俺の声が聞こえているのかもしれないと……儚すぎる期待を寄せて、ナナの顔を食い入るように見つめた。
すると、僅かにぴく、とその瞼が動いて……長く上向きの銀糸の睫毛が……ゆっくりと、持ち上がる。
その濃紺の瞳に月明かりが差しこんで、この世の時が止まったのかと錯覚するほど、その目は―――……
焦がれたその目は深く光を取り込んでいて………
息をすることを忘れるほど――――……
ただただ、美しかった。
「――――………ナナ…………。」
「――――………リ………ヴァ…………。」
ゆっくり一文字ずつ、その唇は俺の名を呼んだ。
久方ぶりに動いた唇はうまく音を発せられず、空気が漏れるような、掠れた……声だった。
だがその呼吸の音すら聞き逃さないように耳を傾けると……ナナは俺の顔を見て、言った。
「――――な……い、てる……の……?」
「――――ッ……誰の……っ……せいだよ……!クソ馬鹿野郎が……ッ………!」