第245章 契
「―――次の一歩を踏み出したら、もう……振り向かずに、行くね。」
「――――ああ。」
「笑顔の私を、覚えてて。」
最後に精一杯の笑顔を向けてから、また背を向ける。
視界からエルヴィンが見切れるその瞬間、彼は右手で顔を覆って俯いた。
「――――君には敵わない……俺は永遠に、君に恋い焦がれるんだ……。美しくて残酷な君に……。」
エルヴィンが小さく何か呟いたそれを聞き届けることはないまま、私は真っ白な雲海のようなそこを、走り続けた。
小さな滴が、後ろに流れていく。
自分で選んで今、私は彼の元に駆けている。
これは涙じゃない。
視界が滲むのも、滴が零れるのもきっと……この白い靄のせいだ。
” ――――起きろよ………、俺の………眠り姫………。”
小さく聞こえる声を頼りに、あなたへと駆ける。
待ってて。
その涙は私が拭うから。
どうか泣かないで。
私の愛した――――
もう一人の不器用な、あなた。