第245章 契
名前を呼んだと同時に、背中からふわりと抱きしめられた感触がした。
優しく、でも強く強く。
私の首筋に顔を埋めた彼の香水の香りが、鼻をかすめる。
「顔を見せて、ナナ。」
エルヴィンは私を後ろから抱きしめたまま、私の手首をそっととって耳元で囁いた。
「――――エル、ヴィ…ッ……!!」
私が振り返ったと同時に少し腕が解かれて、私はその胸に飛び込んで抱きつく。
するとまた彼の腕は、ぎゅっと強く私を包んだ。
「やっと会えた。」
「エルヴィ……エルヴィン……。」
「俺のお姫様はいつまでも泣き虫だな。あんなに凛々しく戦っていたこれまでが嘘のようだ。」
エルヴィンははは、と小さく笑う。
でもその声もどこまでも優しくて……そのゆっくりと大きく鳴る鼓動が心地よくて、もっと彼を感じたくて、背中に回した両手にギュッと力を込めて抱き締める。
「――――寂しかったか?」
エルヴィンは少し悪戯な声で、問いかけた。私は少し間を置いて、答える。
「――――ううん。」
「おや、残念だな。」
「………そうならないように、あの子を残したのはエルヴィンでしょ。自分勝手なひと……。」
少しの嫌味を含めた言葉を口にして彼を見上げる。
久しぶりに見るその蒼はどこまでも透き通って深く美しくて、私は彼の顔に両手を伸ばした。
頬を両手で包んで、引き寄せる。
もっと側で。
もっと私だけを。
もっと永遠にずっと。
その想いが、そうさせる。
エルヴィンは口角を上げて笑って、まるで悪いと思っていない顔で謝罪の言葉を口にした。
「ふふ、悪かったよ。」