第245章 契
どれもこれも、色鮮やかで……そこに紐づく色んな感情が呼び起こされて、私は一人佇む。
大切な想い出の場所なのに、どんなに景色を塗り替えてもそこには誰の笑顔もなくて……思わず駆け出して、人影を探す。
「――――ねぇ、誰か……。いないの……?」
私の最後の記憶は、私の血を浴びたリヴァイさんの焦燥しきった顔だ。
――――あんな顔をさせたいわけじゃないのに。
私はいつも、彼を傷つけてしまう。
だから見えないところでひっそりと死ぬなら、それもいいかもしれないと……思った。けれど、リヴァイさんはそれを許さなかった。震える腕で、指を欠いた手で、私の体を強く強く縋るように抱いてくれた。
遠のく意識の中で聞いたリヴァイさんの血を吐くような慟哭は、私の心をさらに締め付けた。
そして今、ずっとここで……誰かを待ち続けている。
「……さみしい………。」
私は死んだのかな。
だとしたらこの”あの世”はとんだ期待外れだ。
せめて”あの世”は、先に逝ったみんなが笑っていて……また彼らの元に帰れると、思っていたのに。独りぼっちで永遠にここにいるのは、果てしない苦しみだ。
辺りを駆けまわって人影を探しても、誰もいない。
病もなくなったのか、全力で走っても走っても、息も乱れない。ただ気持ちが底をついて、私はその場にぺたん、と座り込んだ。
私はこんなにも周りの人に生かされていたんだと思い知る。
――――会いたい。
誰かに。
ううん。
ここが”あの世”なら、誰よりもあなたに会いたい。
そう私が願った時に、あなたはいつもずるいくらいに最適なタイミングで手を差し伸べる。
「――――ナナ。」
私の背後からかけられたその声は優しくて、顔を見なくてもその表情がわかる。
――――ずっと待ってくれていた。
ずっと愛し続けて、見守り続けてくれていた。
こみ上げる涙を止める術はなくて、私は両手で顔を覆って振り返らないままその名を呼んだ。
「――――エルヴィン……っ……。」