第244章 眠り姫
エイルが来てくれりゃ、ともすれば……と、思った。
僅かな希望だった。
――――だが何時間もめげずにナナに縋って言葉をかけ続けるエイルを……俺がこれ以上、見ていられそうにない。
泣いて泣いて目を腫らしたエイルに夕食をとらせ、ナナの部屋の隣のベッドに寝かせる。エイルは最後まで顔を横に向けて……隣のベッドに横たわる母の横顔を、見ていた。
そしてまたぽろりと涙をこぼしながら、月が高く昇る頃に眠りについた。そんなエイルの髪を撫でながら、窓から月を見上げる。
「――――なぁ、いつまでも俺を……試してんのか……?」
俺がどういう決断をするのか、見てるのか。そこから。最愛の女とその娘を俺に託して……クソほど身勝手だな、お前は。
エイルが静かに寝息を立てたことを確認して、ナナの眠るベッドに腰かける。ナナの白銀の髪に月明かりはよく映えて……キラキラと光を弾く。
――――なんで、起きない?
……こんなに側にいるのに……触れられるのに……温かいのに。
なぜ目を開かない?
細い腕に幾つも針を刺されて管を繋がれて……生きていると言えるのか?
お前に意識はあるのか?
なぜ俺を見ない、なぜ俺を呼ばない。
―――――ここに、いるのに。
爆発しそうな感情が、俺を動かした。
ナナの首に片手を添える。
――――細い首だ。
辛うじて呼吸をしているその気管を締め上げて塞げば……死ぬのか。
ぎり、と力を込めてみる。
何度も思った。
――――手に入れてしまった狂おしいほどに愛しいお前の、死すら俺のものに、と。
俺を想い生きて、死ぬのなら俺の腕の中で死ねと。
――――俺は、ナナを――――……終わらせる。