第244章 眠り姫
あれは戦争が落ちついて数か月経った頃だった。
ナナを残してパラディ島に帰る決断をする前に、マーレの医師の口から聞いた言葉だ。
『――――安楽死?』
『――――はい。』
なんだそりゃ……いつか聞いたな。
あぁそうか……ジークのクソ野郎が言ってやがった言葉だ。
『辛うじて呼吸が出来ている状態ですが……このまま目を覚まさない可能性は高い。そして……いつ呼吸が止まっても、おかしくない。』
『――――それで、せめて安らかに終わらせてやれと……?』
『そういう選択肢も、あるということです。……一人ここに残されて……誰にも看取られずに死を迎えるより、家族に囲まれて苦しまずに逝かせてあげるという選択をされる方も、いらっしゃいます。』
『それは……投薬でもするのか?』
『はい、点滴からそういった薬を……。』
『やるなら、――――俺の手で終わらせたい。』
『え……、手にかける、という……意味ですか……?』
『そうだ。あいつはそう望む。』
『――――もし本当にそうなるのなら、聞かなかったことにさせていただきます。』
『あぁ……、だろうな。』
あの戦争が終わって直後、世界を救ったパラディ島を代表としてのアルミンの掛け合いの甲斐があり、ナナはすぐさま最寄りのまだ被害を受けていなかった都市の病院へと運ばれた。
集中治療を受けながら目を覚ます時を待ったが、傷の癒えた俺達がパラディ島に帰還するその時までナナは目を覚ますことはないまま……俺達は仕方なく、眠り続けるナナを一人マーレに残して帰還した。
ナナの容態は月一で見舞ってくれるガビとファルコからの手紙で知ることができた。アルミンたちも定期的に容態を見てくれていたそうだが、半年経ってもナナが目覚めることはなく……その事実から逃げ続けた俺は、ようやくナナの命と向き合う覚悟を決めてここに来た。