第244章 眠り姫
「――――いや。生きてる。――――ただもうずっと、こうやって眠ってる。」
――――いつ目を開けてもおかしくない。
ただ逆に、いつ死んでもおかしくない。
だから俺は、ここに来るのが怖かった。
この扉を開けたその先にナナがいないことも、辛うじてただ息をしているだけのナナを見るのも……。
「お前が呼んだら……ナナは目を覚ますかもしれないと思った。だから―――……お前を連れて来た。」
「…………。」
「その目に自分を映して欲しいならそう言え。伝えろ。お前が側にいると。」
エイルの背中に手を添えると、エイルは勇気を振り絞るようにナナの手を握って、顔を覗き込むようにして母に言葉をかけた。
「――――お、かあさん……?わたし、きたよ……。」
なんの返事が無くても、何度も何度も、エイルは語りかけ続けた。
「りばいさんと、いっしょに……きたよ……。おきて……、おかあ、さん……。」
語り掛けても返ってこない虚しさに、エイルの声が震える。
その大きな瞳に涙を溜めて、何度も何度もナナを呼んだ。こんな小さなガキにとってそれは……辛いだろう。
目の前の母が、そこにいるのに……自分を見つめて、呼んでくれない。
一方通行の母への愛を、ひたすらに言葉にして伝えている。
その光景はひどく胸が締めつけられる。
――――やっぱり、駄目なのか。
なら……ずっと一人で、故郷にも帰れず……こうしてただ息をするだけなのなら。
約束通り、その死すら……俺の腕の中で……
愛する娘に看取られて、遺骨となってでも故郷に……家族の元に返してやる。
そういう選択肢もある。