第244章 眠り姫
この地に眠る仲間達に別れを告げて、俺達は再び歩き出した。
―――――その丘陵からしばらく歩いたところに、大きな建物が見えてくる。俺達の島には到底存在しないような、大きな建物だ。受付でその場所を尋ねて、エイルの手を引いて階段を上がる。
鼓動が、徐々に早くなる。
――――会いたい。
でも、怖い。
無自覚だったが……俺の手がエイルの手を強く握ったのか、エイルがまたぎゅ、と俺の手を握り返した。真っ白な長い廊下を進んで、一番奥のひっそりとした部屋の扉の前に立って……深呼吸をして、なんとか鼓動を落ち着かせる。
扉を静かにノックしても……もちろん、返事などなかった。
そっと扉を開けるその扉は、重かった。
ぐ、と力を込めて扉を開くと、ふわりと香るのは緑の匂いだ。その風が吹き込む先に目をやると、開かれた窓から吹き込む優しい風が、真っ白なレースのカーテンを揺らしていた。
――――そしてその下に横たわるのは………
「―――――ナナ…………。」
小さく俺が呟くと、初めてエイルが……繋いでいた俺の手を、放した。
「おかあ、さん………?」
震えるような足取りで一歩、エイルがナナの元へ近付く。そこに横たわる女は真っ白な肌と、風に揺れる白銀の髪が驚くほど美しくて……長い銀糸の睫毛を閉じたままの姿はさながら、人形のようで……体に繋がれた幾つもの人工的なチューブや配線と、そのベッドを取り巻く機器の多さから、生きているのかすら、疑うような光景だ。
エイルは恐る恐る一歩、また一歩と歩を進めながら……ついに、ナナの側に立った。
震える手で、母の手にそっと触れてみた。
それ以上どうしていいのかわからないのか、エイルはその手を引っ込めてしまった。俺はエイルに歩み寄り、かがんでその肩を抱きながら目線を合わせて心の内を問う。
「どうした、怖いか。」
「――――こ、わい……。おかあさん、しんじゃったの……?」
エイルはナナから目を逸らした。