第244章 眠り姫
「ここでいい。」
「はい、承知しました。」
バタン、とタクシーの扉が閉まって……エイルの手を握って、その丘陵を歩く。
「りばいさん………?」
エイルもここが墓だということを理解したのだろう、不安そうに俺の手をきゅ、と握った。
「――――行くぞ、エイル。」
「……うん。」
立派に整えられた墓標のその先に、野ざらしに不揃いな石だけが置かれた、いくつかの簡易な墓がある。
――――マーレ人からしてみりゃ、命を奪った敵の遺体なんぞ埋葬すらしたくねぇものだろうが……、調査兵団の兵士数名が、ここに埋葬されている。
以前までの世界ならば、こんな扱いは誰も許さなかっただろう。だが……エレンが気付かせた。憎しみを連鎖させて増幅させることがいかに愚かで……取り返しのつかないことに繋がるのか。
そこでわずかに人の心が変わったのか……マーレ人と同等の扱いではないにしろ、俺達の仲間の遺体を尊厳を持って埋葬することが許されたのは……大きな変化だと俺は思う。
その歪な墓石の一つ一つに、一輪ずつ花を置く。
「―――なぁお前ら。見てるか?新しい……世界を。」
「……りばいさんの、たいせつなひとの……おはか……?」
墓石に話しかけた俺の手をきゅ、と握って……エイルは眉を下げて悲しそうに俺を見上げた。
「……そうだ。」
「……………。」
エイルはじっとその墓石の一つ一つを見つめて、歌を歌った。その歌は……ナナが口ずさんでいたことがある……星の歌だったか。
天使のような歌声はまるで鎮魂歌のように響いて、風に乗ってあいつらの魂の元へと、届きそうだとすら思う。
「………上手だな。」
エイルの頭を撫でると、エイルは頬を染めて嬉しそうに俺を見上げた。
「――――おとうさんは、ほしになったっていってたの。」
「…………お母さんが、か?」
「うん。――――だからこのひとたちも、ほしになって……りばいさんを、みてるよ。」
「――――だといいな。」