第244章 眠り姫
大通りの花屋で花を見繕っていると、いつぞや見かけた……造花売りがその籠いっぱいの造花を持って道行く人々に声をかけていた。俺がその女に声をかけると、エイルが物珍しそうに籠の中を覗いて、一輪の造花を手にとって目を丸くした。
「……りばいさん?!これ、ほんものじゃないです……!」
「あぁそうだ、造花……決して枯れない、作り物の花だな。」
「わたしのかみかざりにも、これ、ついてました!」
「……そうか。」
俺はポケットから小銭を取り出して、造花売りの女の手にちゃり、と置いた。そして籠の中から……真っ白で可憐な花を一輪つまんで、エイルの髪に挿す。
「――――いいな。似合う。」
「……いいの、ですか……?」
「久しぶりにお母さんのところに行くのに、少しくらいおめかししてもいいだろう?」
「………わぁ……!うれしい、ありがとう!!」
エイルはまた嬉しそうに笑って、髪に挿された造花を手で確かめては頬を綻ばせていた。
――――生花の花束を買って、通りがかったタクシーを捕まえて乗り込み、行先を告げる。
「レベリオ区の向こうの慰霊公園まで頼む。」
「はいよ。」
初めて乗る車にも、エイルは興奮しまくりで車内も、車窓から見える景色も、ずっときょろきょろと忙しなく動いては指を指して、俺を呼んだ。
「りばいさん!あれ!みて!!」
「ああ。」
「りばいさん、あっちのあれはなんですか?」
「――――あれは……アンテナじゃねぇか。無線やらの通信をあれで可能にしているらしい。俺もよく……知らねぇが。」
「へぇ……あん、てな……、むせん………。」
しばらく車は走って、繁華街を抜けると緩やかな丘が見えて来る。そこには等間隔に並んだ――――……墓標がある。
俺達が仕掛けたマーレへの奇襲で命を落とした者達の魂が、ここに眠っている。