第244章 眠り姫
「ナナは調査兵団に戻る前に……予感でもあったのでしょう……、激しい戦いになると。無事でいられない可能性をわかっていた。だから私たちに、言い残して行ったんです。『もしリヴァイさんがエイルを訪ねて来たら……その時は、リヴァイさんとエイルが望むようにさせてあげてほしい。』と。」
「――――………。」
ナナが、そんなことを……。
まるで遺言じゃねぇか……。冗談じゃねぇ、と思ったが……あいつの思う通りに行動している自分がいることが、情けなくも少しだけ誇らしいと思う。
「だから……どうか、宜しくお願い致します。リヴァイさん。」
クロエは立ち上がって俺に深く、頭を下げた。
「――――ああ……了解だ。」
こうして俺とエイルは王都を出て、パラディ島最南端の港から船に乗り、かつて戦場と化して殺し合った地―――……マーレを、目指した。
道中の鉄道にも、船にも、海にも、満点の星空にも……ありとあらゆるものに目を輝かせては、絵日記のようにノートにさらさらとその発見や興奮を記していくエイルは……どれだけ見ていても飽きない。
くるくるとよく動いてははしゃいで、歌って……踊って……俺の視線に気づくと、ふにゃ、と柔く笑うそれが――――……たまらなく、可愛い。
やがて船はマーレ大陸に上陸し、エイルはそわそわと、きょろきょろとしながら船から大陸へと一歩、足を踏み出した。
「――――エイル。手、出せ。」
「??」
治安が特別悪いわけではないが、それでもかつてこの地に初めて来たときに感じた排他的な空気は数年やそこらで変わるわけがねぇ。
――――あとは何といってもこの外見だ。
すれ違う通行人の目が、たいていエイルに止まる。
可愛いがすぎるんだよ、クソ。
ナナの娘だという色目抜きにしたって、とんでもねぇ美少女じゃねぇか。変態に目をつけられでもしたらたまったもんじゃねぇからな。
手を繋いで歩くぞ、と俺が手を差し出すと………エイルはいつものように、きらきらとした笑顔を見せて嬉しそうに、小さな手で俺の手を握った。
「はい!!」