第244章 眠り姫
エイルを連れて行くとしても……オーウェンズの奴らになんの断りも入れずに行くと誘拐になっちまう。
――――ただ、俺と行くことを良しとは、しないだろう。
だが俺はなんとしても……ナナの元へ、エイルを連れて行きたい。どうやって首を縦に振らせるかと思案しながら馬車に乗り込み、ナナの母親がいるオーウェンズ病院の扉をノックした。
扉を開けたのはまさにそのナナの母親だ。
俺に抱き上げられてすやすやと寝息を立てながらも、目じりに涙の痕を残すエイルと、俺の顔に目線を往復させて……ナナの母親クロエは、困ったような顔で笑った。
奥の部屋に通されて、エイルを別室のベッドに寝かせてからクロエと向き合う。
俺がエイルを連れて行くと話を切り出すと、返って来た返答は思いもよらぬものだった。
「そうですか。ではいつ発ちますか?」
「あ?」
いやいやそうじゃねぇだろ、行かせるわけにはいかない、だのなんだの色々あるはずじゃねぇかと拍子抜けする。そんな俺の顔を見て不思議に思ったのか、クロエは首をかしげて俺に問う。
「なにか?」
「……いや、もっとこう……反対するだろ、普通は……。」
「……反対?なぜ?」
「……父親でもない血のつながりもない男に孫娘を『はいそうですか、どうぞ』と預ける奴がどこにいるんだよ。」
「――――血のつながりなどあってもなくても、関係ありませんよ。」
ナナの母親は相変わらずどこかちょっと世間離れしている。うふふ、と小さく笑って繊細な柄のカップに注がれた紅茶を口に運んだ。
「だってリヴァイさんが、どれほどナナを愛してくれているかなんて……傍から見ても、こっちが恥ずかしいくらい分かってますから。」
「――――……うるせぇ……。」
「ナナが愛するあなたとナナが愛するあの子が共に行くことを、私たちが阻む理由などありません。それにね、それはナナの意志です。」
「………どういうことだ。」