第243章 少女
「――――楽しいことばかりじゃ、ないかもしれないが……、覚悟はあるか?」
「かくご?」
「………泣きたくなるかもしれない。辛いことが、あるかもしれない。――――だが、この島からは見えない空と海の間には……お前の知らない、素敵なものも、あるかもしれない。」
「……………。」
エイルは再び難しい顔をして、う~んと考える仕草をしながら首をひねった。そして目をパッと見開いて、俺の方へずい、と顔を差し出して問う。
「つらいとき、なきたいときにも……たのしいときにも……、りばいさんは、ずっとわたしのそばにいる??」
その甘えとおねだりを微かにを含んだような問は、有無を言わさず俺を従える。
――――ずるい奴だな。
お前によく似てる。
その輝く金髪も。
意志の強そうな眉も。
――――なぁ、エルヴィン。
そんなことを考えると、自然とふと笑みが零れた。
「――――いる。当たり前だ。ずっと側にいる。」
エイルの頭をぽんぽんと撫でると、エイルは可憐な花が咲くようにきゃ、とくすぐったそうに笑って……、俺の手を取って、その手に頬擦りをした。
――――仕草にも遺伝ってものがあるのか?と不思議に思うほどその姿はナナと重なって……、俺はいつものように指先で子猫の喉を撫でるようにエイルの顎下をすりすりと撫でる。
「じゃあ “かくご” ある!いく!!」
――――あぁ、抗えない。
たまらずまたエイルをふわりと抱くと、エイルは生意気な言葉をふふん、と零した。
「あまえんぼうさんですねぇ。りばいさんは!」
おおかた、エイル自身がハルにでもよく言われる言葉なのか……、くふふ、と小さく悪戯に笑いながら発されたそのクソ生意気な言葉すら心地よくてふっと、笑ってしまう。
「ああ、お前は温かくて柔くていい匂いがするからな。」
ぎゅ、とその身体を抱くと小さな鼓動を感じる。
エイルは黙って少し俺に抱きしめられてから……そっと小さな手を俺の背中にまわして、呟いた。