第243章 少女
目線を落としたその先のエイルの小さな手に握られたその白い布はよく見ればくたくたで……血の跡や擦り切れたような跡が残っている。
でも大事にされていた事がわかる、綺麗に折りたたまれた白い布。
――――これは俺が初めてナナにやった、クラバットだ。
何度もナナの涙を、血を拭って……こうしてエイルに宝物のように引き継がれている。
――――ここにもまた、ナナを見つけられた。
そしてまるでナナのようなセリフをこんな舌ったらずに、でもどこか誇らしげに言うエイルが可愛くて……ふっと、笑みが零れる。
「……エイル。」
「??」
「お前と一緒に、行きたいところがある。」
「………どこ?」
「――――外の世界。」
「そとの、せかい?」
エイルは大きな瞳に俺を映して、首をかしげる。
――――本当は俺は、怖い。
その地に再び赴いて――――その現実を、受け入れるのが。
だが、ナナはきっと……なにより娘に……いち早く外の世界を見せてやりたいと言うだろうと、思った。
「――――俺は……お前のお母さんを、そこに一人……残して来ちまったから……。いい加減もう、迎えに行ってやらねぇと。寂しいだろうからな。」
「おかあさん?あえるの??」
――――妙な期待を持たせてしまったかもしれない。
エイルは、ぱぁっと口角を上げて白い歯を覗かせ、目を輝かせた笑顔を俺に向けた。
「………どうだろうな。俺が迎えに行くのが遅くて……もう、どこかに行っちまってねぇと、いいんだが……。」
俺の言葉は母親を待ち続けたのであろう少女には、酷だっただろう。会える、と……約束してやれない苦しさが募る。
「いく!!」
そんな俺の心情をよそに、エイルはこれ以上ないほどの笑顔で笑った。