第243章 少女
しばらく来ていなかった王都。
ナナの生家の門番とはもう顔見知りだ。
「あぁ!お久しぶりです!まぁた男ぶりが上がりましたね!さすが人類最強だ!」
恰幅も愛想もいい門番は、ははは、と笑いながら自らの右目をとんとんと指さしながら言った。
「まぁな。不便だが。」
「――――聞きましたよ。ナナお嬢さん……の、こと……。」
「あぁ………。」
「今日は何用で?」
「――――ハルはいるか?」
「はい、お待ちください。」
門番がすぐに取り次いでくれて、屋敷からハルが息を切らせて走ってきた。
「リヴァイ、さま……!」
「――――久しいな。急に済まない。」
「いいえ……!急にお訪ねになる理由がおありなのでしょう……?!」
ハルの表情は、俺が来たことが吉か凶か……その話の振れ幅にわずかに怯えているように見えた。
「あぁ……頼みがあってな……。」
「……………!」
ハルにそれを話すと、ハルは涙をぽろ、と流しながら何度も頷いた。そして俺はハルについて……屋敷の裏庭に、向かった。
そこは緑に溢れ、そこかしこに薔薇が咲き乱れていて……かぐわしく甘い香りに満ちていた。真っ白な羽の蝶が懸命に羽をはばたかせている。
ハルは気を利かせてその場を後にして……俺は一人、その庭園を歩いた。
手入れの行き届いた庭は命で満ちていて……あぁ、ナナがここにいたら……どんな顔で笑うだろうかと、またそんなことを思う。
そしてふと、俺の目の前を黒い大きな羽に空のような蒼を配した蝶が、横切った。
初めて見た蝶だった。
ひらひらと舞っていくその蝶から目が離せず、その行先を見つめていると……一人の少女が、生垣の後ろから飛び出してその蝶に手を伸ばした。
もちろん捕まえられるはずがなく、少女の指先を掠めてその蝶は……空に還るように去って行った。
その姿を唇を尖らせて見つめる少女に向かって、俺は確信してその名を呼んだ。