第243章 少女
「――――おはようございま、えっ?」
「あ?なんだいいところに来たな。手伝え。」
「えっ、え?」
眩しい朝日に目を細めながら、三角巾を捲いて箒や雑巾やバケツを用意した。ちょうどいいところにアーチが尋ねて来やがったから、この上なくこき使ってやる。
状況が読めないときょろきょろするアーチに雑巾とバケツを無理やり押し付けた。
「水を汲んで来い。お前は拭き掃除だ。」
「………!!」
俺が部屋中の窓を開けると、アーチは驚いた顔をして……くしゃ、と顔をゆがめてまた、泣いた。
「何を泣いてやがる。」
「――――やっぱ兵長は……そうで、ないと……!」
「………生意気な元部下がな。」
「えっ?」
「『ビビッてんな』だの『自分で動けクソ馬鹿野郎』だの暴言を吐きやがるから――――」
じろりとアーチを横目で見ると、アーチはとっさに肩をすくめて目を逸らした。その姿に久方ぶりに少し……ふっと息が抜けた。
「それは……そのほら……勢い、ってやつで……。」
ごにょごにょと気まずそうに言い訳を並べるアーチに、言い慣れねぇ言葉を伝える。
「――――ありがとうな。」
「!!」
「――――ここを整えたら、自分の足で動いて……迎えに行く。」
俺の言葉に、アーチは腕で豪快に涙を拭う仕草を見せた。
「………兵長……っ……!」
「泣いてねぇで手伝え。」
「は、はいっ……!」
それから黙々と2人で掃除をして……
翌朝、新しく空気を入れ替えて美しく整えた部屋を後にした。