第243章 少女
「――――なぜ俺にこだわる?お前には関係ねぇだろ。俺が腐ろうとも。」
「………は………?」
「なぜだ。」
ジルは俺の問の意味がわからないというような怪訝な顔をしてから、少しだけ笑った。
「そんなこともわかんねぇのか?」
はん、と鼻を鳴らす野郎に、イラっとする。だが一転してジルはとても嬉しそうに、言った。
「――――お前が大事だからな。俺を地下街から引き上げてくれた……お前が。」
「俺は何もしてねぇ。お前が勝手に俺の背中を追って来たんだろう。」
「その背中を見せてくれた奴を、大事に思っちゃ悪いかよ。」
「――――……。」
「戻れリヴァイ。時間がかかったっていい。お前はもうどんなに目が眩んでも、辛くても……太陽の下で生きていける奴だろ。」
ジルの言葉でなぜか……その圧倒的な引力で俺を地下街から引きずり出した、エルヴィンを―――――思い出した。
この薄暗い地下街に目も慣れた。
また太陽を眩しく感じる。
ナナが側にいない世界は、色褪せて見える。
――――だが……いつかナナが言ったな。
すべてが終わるわけじゃない。
たとえナナがいなくても……ジルやアーチ、104期のガキども……俺の周りに奴らは確かにいて、俺のために怒り、涙を流す。
その関係を築いてきたのは……まぎれもない、俺自身だと。
――――見上げてみようか、もう一度……
目が眩むほど眩しくても。
地上で……あの、部屋で。
ナナとちゃんと、向き合えるまで。
「――――てめぇにそんなことを言われるとは、意外だった。」
「は?俺はいつでもお前の支援者だっただろうがよ!元気づけたお代は払ってくれるか?」
ジルが涙を拭いながらひひひ、と笑って、手を差し出す。俺はそれを一瞥して、その手をパン、とはたいた。
「俺の胸ぐらを掴んだことの詫び料とでチャラにしてやる。」
「んだよ、ケチくせぇなぁ!」
ジルは途端にいつもの調子で、がばっと俺に肩を組んでくる。
――――――悪くはないと思えた。