第243章 少女
ぼんやりと歩くままたどり着いたのは……もう二度と来ることもないと思った地下街。今はもう廃墟と化した……ワーナーの家だ。
きぃ、と扉を開けると、そこに黒いフードを被った少女の残影を見た。
夢中で本にかじりついたり……不器用ながら一生懸命紅茶を淹れたり……俺に一緒にいてほしいと言い出せずに、ちらちらと俺をこっそり盗み見たり……
“リヴァイ……さん……。”
“リヴァイさん?”
”リヴァイさん!“
俺の名前が特別になったのは……あいつが呼んだからだ。
反芻する記憶の中のナナはどれも明るくきらきらと笑っていて……あんなに美しく優しい生き物が、あんな姿になっていいはずがない。
胸の奥が抉られるように痛むはずなのに涙は出なかった。
――――血まみれのナナを抱き締めて慟哭を上げたあの日に……涙は流しきってしまったのか。
「――――俺は……どうしたら、いい……?――――なぁ、じじぃ……。」
薄暗く埃まみれの部屋で漏れた言葉は……誰にも届くことなく、消えた。
数週間、地下街にいた。
日の光が届かないそこは……その時の俺にはひどく落ち着く場所で、何をするでもなくただ彷徨って、たまに絡んでくる輩を半殺しにして……見えないはずの太陽を見上げるようにぼんやりと天を仰いでいた。
「――――おい……嘘だろ、なんでお前……ここにいんだよ……。」
「――――………。」
見た顔だ。
だが、どうでもいい。
俺はふいっと顔を背けて、面倒なやりとりをしなきゃならねぇことになる前に、そいつを捲こうとした。
「おい待てよ!!リヴァイ!!」