第242章 慟哭
兵長はまるでその事実に怯えるように、不自然なほどナナさんのことを話さなかった。
だから、俺も話さなかった。
なんでもない天気の話、マーレの街の動き……そんなどうでもいい会話を毎日ほんの少し交わしながら……兵長の傷が癒えるのを待った。
三か月が経って、兵長の体の傷も癒えた頃……俺たちはパラディ島に帰還することになった。
アルミンやジャン・コニーはまたマーレに戻るらしいけれど……兵長も俺も、パラディ島に残ることを決めた。
――――兵長がその選択をするなんて、正直驚いたと同時に……多少の怒りさえも感じた。
でも……でも、兵長が決めたことに俺がとやかく言うのもおかしい。だから……せめて俺は、兵長の側で少しでも……役に立とうと、思ったんだ。
――――なのに。
「えっ兵長は?!」
「えっ?!わからない……そこにいないですか?!」
「いない……!!」
船がパラディ島に着いて荷下ろしをしている隙に――――、兵長は一人、姿を消した。
「あの……野郎!!」
俺が拳を握りしめて怒りを露わにしていると、アルミンが慌てて俺を窘めに来た。
「アーチさん、落ち着いて……、兵長にはきっと何か……考えが……」
「あの様子で何か考えてるように見えたか?!考えてるとすりゃ、どうやって死のうか、とかそんなくっだらねぇことだ絶対……!」
「――――そんなことない、とも……確かに……言えない、様子では……あったよな……。」
「――――あんな兵長、見てる方が……辛ぇよ……。」
ジャンとコニーも辺りを探してくれたが見つからず……いい歳したおっさんを探し回る羽目になった。