第242章 慟哭
―――――――――――――――――――
――――頭から離れない。
あの兵長が、泣き叫んで……取り乱して、錯乱したようにただナナさんの名前を呼び続けていた。
何かの糸が切れてしまったかのように、兵長は病院へと搬送されるナナさんの姿を遠目にぼんやりと見つめながら……側に寄り添うこともせず、まるでその先にある事実が自分を崩壊させてしまうことをわかっていて……そこから逃げるように、うつむいたままふら、と宛もなく歩き出した。
こんなにも、この人の大部分をナナさんが作って……支えていたなんて。
「――――兵長……足、ふらついてます。一緒に行きます、俺……。」
「――――………。」
慌てて兵長に肩を貸すと、拒否されるかと思ったけど……俺の手を払うことも返事もせず、ただ抜け殻のように……マーレが用意してくれていた部屋へと、帰った。
もちろん兵長も重傷で……手厚い待遇を受けながら回復を待った。アッカーマンの血から齎されていたものとみられる異常な回復力はなぜかこの時には発揮されずに……ゆっくりと、常人と同じようにただひたすら静養する日々が続いた。
ミカサは人知れずパラディ島に戻り、アルミンとジャン、コニーはこれからのパラディ島のために日々奔走していたけど……正直もう俺は……俺の役目を終えたと思っていて、そこに混ざる気はなかった。
もとより汚れ仕事ばっかりしてきた身で……世界を救うほんの一端を担っただけで、これからのパラディ島の未来を左右するような立場に身を置くことなんて不相応だと思った。
――――それに、俺は……ただ静かに、誰も殺さなくていい世界で生きていければそれでいい。
ただ一つ……この人のこれからの人生がどうなるのかだけが気がかりで……俺は毎日、兵長に付き添っていた。