第242章 慟哭
駅に着いてから僕は、ミュラー長官に……ナナさんを大きな病院へと搬送するように頼み込んだ。
最初エルディア人であり且つパラディ島の悪魔と呼ばれた僕たちにその手を差し伸べることにあからさまに抵抗を見せた。けれど、その列車に居合わせた、ナナさんが救ったマーレ兵たちが声を揃えてそれに反論し、彼らのおかげでナナさんを病院に運び込むことが許された。
ナナさんが救い、繋げられた命の輪は――――これから待ち受けるの長く苦しいであろう歴史の中で……少しずつでも何かを、変えていけるのではないかと希望を、持たせてくれた。
――――けれど、もう……その時点でナナさんの意識はなく……ピクリとも動かず、血まみれの小さな体が運ばれていくのを、リヴァイ兵長はただただ抜け殻のように無の表情で見つめていた。
アーチさんに支えられて、兵長は……その場を後にした。
それからしばらく僕たちはマーレに留まり、事の顛末をどのように世界に発信するのか……パラディ島の行く末と、僕たちの在り方を議論し続ける毎日を送った。
無論傷だらけの兵長はひたすらに回復に専念し療養、ミカサは……なんとか秘密裏に手配してもらった一隻の小さな船で、エレンを連れて……故郷パラディ島に帰った。
あれから三か月。
一度僕たちはパラディ島へ戻ることになった。
兵長も問題なく歩けるほどに回復を見せていた。
……体の、方は。
ただずっと、抜け殻のようにぼんやりと……ここではないどこかを見つめているようなことが多かった。
「――――兵長。もうすぐ、パラディ島に着きますよ。」
「………ああ………。」
時折兵長は、指を欠いた右手を……見つめている。
そこに何を見ているのか。
彼女の手を握っているはずの手。
彼女の髪を撫でているはずの手。
彼女を――――守るための、手。
そこに絶対的に足りない彼女の姿を、ずっとずっとずっと……探し続けているようで……僕は気の利いた言葉一つかけられなくて……
ただ兵長の背中を見つめて、涙を拭った。