第242章 慟哭
「兵長……っ……、兵長、ナナさんを、離してください……!」
「――――うるせぇ………。」
あまりに取り乱した兵長をナナさんから引きはがそうとしたけれど……兵長はそれを頑なに拒否した。
誰にもナナさんを触れさせないと言わんばかりに、より強くその体を抱いてまるで……周りすべてを冷たく研ぎ澄まされた刃で威嚇しているような、殺気を放った。
手も顔も愛しい人の血で赤く染まったその人は……まるで神様ですら……その手で殺してしまうんじゃないかと思うほどの殺気だ。でも怖がってなんかいられない、とにかく……、とにかく落ち着かせないと……!
「兵長、落ち着いて……!ナナさんを離して!!」
「触るな……っ……!ナナを奪おうとするなら……殺すぞ…………!」
ぞくりとするほどの、殺気……人類最強は健在だった。
思わず手を止めた僕の後ろから駆け付けたアーチさんが、兵長の後ろから動きを封じるように体を抑えこんだ。普段の兵長なら僕たちの制止など無意味に終わるところだけど……兵長も大けがを負っているから……僕たちは二人でなんとか、ナナさんから兵長を引きはがした。
「落ち着けよ!!兵長!!あんたらしくない!!!」
「――――やめろ、返せ、ナナ……っ……、死ぬなら……っ、せめて、俺の手で――――………」
――――兵長の叫びは、苦しいくらいナナさんを愛していることを物語っていた。
なぜ……なぜこの人はこんなにも失い続けなくてはならないのか。
僕もまた神様を――――恨んだ。