第242章 慟哭
柔らかな風が吹く季節。
天気は良く穏やかなのに、リヴァイはとことん不機嫌そうだった。
「――――おいアーチよ。」
「はい?」
「なぜお前が当たり前のようにほぼ毎日俺の部屋にいる?」
相変わらずカーテンを閉め切ったその部屋の奥の小さなキッチンで、くつくつと湯を沸かす音がする。
そこには当たり前のような顔で手際よく紅茶を淹れる元部下、アーチの姿があった。アーチは煮立った湯をポットに勢いよく注ぎ入れて、ポットに蓋を被せる。
元上官から紅茶の淹れ方を叩きこまれてから紅茶の魅力にとりつかれたのか、気付けばとても上手に紅茶を淹れるようになっていた。蒸らしている間にポットを保温するためティーコジーまで自前のものを持参している。
ダイニングの古びた椅子に腰かけ、頬杖をつきながらリヴァイが尋ねると、アーチは少しの沈黙を置いて、小さくその理由を伝えた。
「――――あんたが背中を預けられるように。」
「――――あ?」
戦場でかつて信頼して背中を預けたのは、ここにいる元部下の―――――兄だ。
それを懐かしく思い出す。
だが、もう戦う必要もないこの世界で、アーチがその言葉に何を込めたのか理解し難かったリヴァイは怪訝そうに眉を顰めた。
「もしくは、必要ならあんたの背中を押しますよ。」
「……生意気だな。」
アーチは僅かに目を細めてリヴァイを見つめた。
ちょうど頃合いだったのか、ティーコジーを取り去って、ティーポットの蓋を少しずらして中を確認する。
温めておいた2つのカップに交互に紅茶を注ぎ入れると、爽やかなカモミールの香りが立ち昇る。
最後の一滴まで丁寧に注ぎ入れ、不機嫌そうな顔を張り付けた元上司の元へ紅茶を運ぶ。
カチャ、と小さな音を立てて目の前にソーサーとカップを置いた。そしてその続きで、ズボンの後ろのポケットに入れていた白い封筒を取り出し、リヴァイの目の前に置いた。