第241章 結末②
「――――ミカサ……っ!!」
ようやく声の届く距離まで来て、途切れる息の合間になんとかミカサを呼び止めた。ミカサはゆっくり振り返り、驚いた顔で私を見た。
「ナナ。」
「――――ミカ――――……」
残りの体力を振り絞ってミカサに駆け寄ろうとした瞬間に、足が止まった。
だってミカサのその腕の中には……
「――――エ、レ……ン………?」
宝物のように、慈しむようにミカサの腕に大事そうに抱かれているのは、エレンの……頭部。
エレンがもう、この世に留まるつもりも……そんな術もないんだってわかってた。
――――でもその光景はあまりに衝撃的で、エレンがあまりに小さくて、そして……そのエレンを、どんな気持ちで……今ミカサは、その腕に抱いているのかと想像すればするほど息が、できなくて……その場で崩れ落ちてしまった。
「――――っ………エレン……っ……あぁああ……っ……!」
慌ててミカサが少し歩み寄って来てくれた。
ミカサはそっと私の前に膝をついてくれて……泣き叫ぶわけでもなく、ただ静かに……一筋の涙を、零した。
恐る恐る目にしたエレンの表情はとても安らかで……何かを成したような、安心したような顔をしていて……あぁこの顔は、ミカサだから……ミカサとアルミンがいたから、エレンはこんなに安らかに逝けたんだろうと理解できた。
――――だけれど、送るほうの痛みは。
ミカサの、その心はどんなに張り裂けそうになっただろう。
私はエレンを抱くミカサを思いきり、抱き締めた。
「――――……ミカサ、ミカサ……っ……!」
「――――………。」
「………エレンは…誰よりもミカサ、あなたのことが――――……」
「――――うん、知ってる。」
それ以上何も言えなかった。
この子たちは私が知らない間に想像も追いつかないほど逞しく……愛を知って――――強くなっていたんだと……誇らしく、思う。
「エレンを……静かに眠らせてあげたいから、私は行く。」
「――――うん……。」
ミカサはそう言って、私に背を向けて……去っていった。