第241章 結末②
『――――笑った……。』
『ん?』
『この姿で笑うエレン……初めて、見た……!』
大人の姿のエレンはいつも、ここじゃないどこかを見ているような表情で……、初めて見たその、幼い頃の面影を残した笑顔が可愛くて嬉しくて……とても温かな気持ちで、エレンを見上げる。
エレンは少し困ったような顔をしてから、悪戯に私の髪を指で遊ばせた。
『なにその嬉しそうな顔。誘ってんの?』
『ちがう。』
エレンの手をパシッと払いのけると、またエレンは……笑ってくれた。
『ちぇっ。』
『いくら私だからって、他の女性にそんなふざけかたはダメだよ。ミカサに、愛想尽かされちゃうよ?』
私が核心を突くと、エレンは途端に頬を赤らめて目を逸らした。――――可愛い。
『ふふ。やっと気づいたんだね。大切な存在に。』
『――――あぁ、ミカサが俺を、解放してくれる。』
『解放……?ねぇ、それ……どういうこと……?』
なんだかその言葉尻に嫌な予感がしてエレンに問うと……エレンはまた少し辛そうに眉を下げた。
『――――いずれわかる。』
『エレン……?』
遠くに行ってしまいそうなエレンに手を伸ばしたけれど、今度はエレンの方が私から……一歩下がって、距離をとった。
『ナナ。』
『…………。』
エレンのその表情と声から……これで終わりなのかもしれないって、わかってしまった。
『お前のこと、好きだった。』
『――――うん……。』
『だからナナが兵長と幸せに生きてくれることを、俺は望む。』
『――――エレンはリヴァイ兵士長のことも大好きだもんね。』
エレンは否定もせず、柔らかく笑った。
『前にも一度伝えたけれど……もう一度だけ言わせて、エレン。』
『――――………。』
『――――あなたのことを愛してる、エレン。私たちを守って戦ってくれて……ありがとう。ずっとずっと、ずっと……!忘れないから……っ……!!』
涙ながらに伝えた言葉をエレンはとてもとても優しい表情で受け取ってくれて……そっと目を閉じたと同時に、その空間は閉じられた。