第241章 結末②
『――――ナナは俺を許してくれるか?』
『………エレン?』
私の目の前にいたのは、小さな……出会った頃のエレンだ。
私を見上げて、泣き出しそうな顔でそんなことを言うから驚いて……私はエレンに目線を合わせるようにかがんだ。頭をよしよしと撫でると、エレンはもう一度それを私に問う。
『ありえないほどの命を奪った俺を、ナナは……許せるか?』
『…………。』
軽々しく許せるなんて言えない。
それほどの前代未聞の虐殺だ……。
けれど、許せないなんてことも言えない。
だってエレンは……私たちを守るために……私たちの未来まで守るために……一人で罪を負うことを選んだのだから。
『――――許すとか、許さないとかじゃ……ないよ。』
『…………。』
私が曖昧に答えたからか、エレンは眉間に皺を寄せて苦しそうに顔をしかめた。エレンがなぜそれを聞いたのかを知りたかった私は、素直にそれをエレンに尋ねる。
『……エレンはなぜそれを私に聞いたの?……私に、許して欲しかったの……?』
『………!』
エレンは目を開いて、今度は泣きそうな顔で私を見つめてから……ぽつりぽつりと、話してくれた。
『―――ナナは、俺と違って……っ、命を、大切にできる、奴だから……っ……!』
『…………?』
『俺は、自由を阻むような奴らは――――、敵だって、全部殺せばいいって、悪魔みたいな奴が内側で囁くんだ……。そんな、俺を……っ……ナナは、軽蔑……っ……』
涙ぐみながら、エレンは一生懸命に心の中の苦しみを吐き出そうとしてくれていた。私はただ黙って、頭を撫でながらその話を聞く。目を逸らさずに……一片の言葉も聞き逃さないように。
『――――嫌わない、で……。』
まるで幼子のように、エレンは泣いた。
どれほど自分が醜い、汚い生き物だと思ったのだろう。
そんなことはない。
あなたは仲間のために戦える。
あなたは壁の中の人類のために辛い道を突き進んだ。
――――そんなあなたを、一体誰が軽蔑するのか。
誰が責められるのか。
――――私は、涙が止まらなくて……エレンをぎゅっと、抱き締めた。