第239章 不帰
アーチに促されたほうに目を向けると……数名の男が、担架を担いで来たのが見えた。
そこに横たわっていたのは……血まみれでピクリとも動かない、ナナの姿だった。
―――息が、できなくなる。
待て。
ありえない。
お前は……俺の傍で……この先も……。
いや、乱されるな。
まだ終わっちゃいない。
エレンを殺すまで……この戦いは終わらない。
駆けつけられない、まだ……お前の元には。
――――俺はまだ、調査兵団兵士長として成すべきことがある。
そしてお前もまた……俺にそれを望む。
だから。
今はお前に背を向ける。
「ナナさんが!!兵長、行けよ!!行きたいんじゃないのか?!」
「―――うるせぇ、まだ終わってねぇ。」
「…………!」
アーチはナナの元へ駆けつけろと言う。
だがそれはできない。
ナナがそれを最も望まない。
まるで俺の視界からナナを隠すように、辺り一帯が靄に包まれ始めた。
「なんだ……この煙……?」
アーチもすぐに異変に気付き、煙が立ち上がってくる方向へと足を向けた。すると同じように、ガビやミカサ、ジャンとコニーもその煙の正体を解き明かそうと要塞の崖の上から体を乗り出して、蠢く光る “何か” を観察していた。
「あの光るヤツの方から出てる……死んだの?」
「いや……巨人が死んだ臭いじゃねぇ……。これは……まさか……。」
いつになく鋭く、コニーがかつての悪夢を経験として導き出した推測を口にした。
「ラガコ村と……同じやり方なんじゃ……。」
「――――………。」