第239章 不帰
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「おい、あんたしっかりしろ!!」
「こっちの男は気がついたぞ!!」
「飛行艇の爆発の恐れがある!!遠くにつれていかねぇと!!」
今俺は、どの “ユミルの民”の目から見ているのか。
知らない人間だ。
だが、はっきりとその目を介して見えている。
あの日……ヒストリアの手に触れて流れ込んできた多くの記憶の断片の一つとして視た未来。避けたかったその光景は、当たり前のように避けることなど許されず……記憶通りに、今この目の前に起こっている。
大破した飛行艇から引きずり出されたナナの姿。
ぐったりとしていて、その体も顔も血に塗れて……風に吹かれて、血の付いた白銀の髪が少しだけ、なびいた。
――――ナナはこのまま……死ぬのか。
素人目でもわかる。
簡単に回復するような怪我の程度じゃない。
……また、俺は大事な人を守れなかった。
また一人、また一人大事な人が死んでいく。
ハンジさんの最後も……視た。
飛行艇の窓から、涙でぐしゃぐしゃになりながら散っていくハンジさんを見送った視界は……誰だろう。
ミカサかアルミンか……。
俺はここからただ視てるだけだ。
何もできやしなかった。
――――俺にできることは、罪なき命を踏みにじることだけ。
――――苦しい。
誰か。止めてくれ、俺を。
そして止めるときには……最も効果的に。
これからのお前らの未来を明るくできる方法で……俺は世界最悪の化け物でいい。
――――それを倒し、この世界を創っていくのはお前らだ。