第239章 不帰
「――――エルヴィン、見てるか?」
確かにジークの首を刎ねた。
思わず小さく言葉に出たのは……、これまで一度だって命令をしくじったことのなかった俺の、意地から漏れ出た言葉だった。
“リヴァイ。ありがとう。”
エルヴィンの最後の笑った顔と、その言葉が脳内で再生された。お前の仇を、ようやく討てた。
俺たちから多くの仲間とエルヴィンを奪い、命を踏みにじったジーク。
ナナに憎悪という感情を芽生えさせた男。
――――だが奴にも、信じるものがあって……安楽死計画こそが救いの道だと、信じて突き進んだ。
ジークの首を刎ねて殺して初めて……あのクソ野郎にもあいつなりの生きる意味を全うしようとしていたんだと、理解した。
そして同時に、俺は安堵した。
「――――ナナ……、もう、怖くない。」
いつまでもナナを守るのは俺でありたい。
人類の大多数が死ぬか否かというこんな場面でさえ、俺はそんな自尊心を守れたことに胸をなでおろしていた。
ジークの首を刎ねることだけを考えていて、その後のことなどろくに考えておらずに投げ出された俺の体を、ファルコがまたタイミングよく受け止めた。そこに、アルミンだけエレンの背に残して撤収してきたミカサとコニー、アニも合流した。
あとはエレンさえ止めれば……うまくいけばエレンを殺さずに済むかもしれない。
だが、きっとエレンはそれを望まない。
奴はきっと……すべての憎悪を背負って、死ぬ気だった。
俺達にそれをさせることで……この世界での俺たち “パラディ島の悪魔” の印象を塗り替え、この先の未来を生きやすくさせるつもりだ。
間もなく俺たちがエレンを殺す瞬間がやってくる。
俺の隣で同じようにその意図に気付いたのであろうミカサが、唇を噛む。
ミカサはエレンを殺せない。
――――なら俺が殺す。
ナナの大事な弟に似た存在でも。
――――苦しみ続けた先に、更に苦しい答えを導き出した馬鹿な部下の始末は兵士長たる俺の仕事だ。
なぁエレン。
お前は所詮いつまで経っても、俺にとっちゃただのガキだ。
だから安心しろ。
――――ちゃんと止めてやる。お前のことを。