第238章 光芒
どうか思い出してほしい。
きっとあったはずだ。
ジークさんにも、忘れられない……瞬間が。
ただ死に向かって時間を消費するのではない、無意味じゃない大切な瞬間が。
僕が伏せた目線の先、指の先にカサ、と何かが触れた。
何の変哲もない、一枚の枯葉だった。
僕の思い出は……エレンが先頭をかけて、それをミカサが追って……僕は最後方から息を切らして2人の背中を追っている場面。
「あれは夕暮れ時。丘にある木に向かって3人でかけっこした。」
僕が突拍子もない話をしたからか、ジークさんは僕に視線を向けた。
「言い出しっぺのエレンがいきなりかけだして……ミカサはあえてエレンの後ろを走った……やっぱり僕はドベで……でも……その日は風が温くて、ただ走ってるだけで気持ち良かった……枯葉がたくさん舞った。その時……僕はなぜか思った。僕はここで3人でかけっこするために生まれてきたんじゃないかって……。」
この時だけじゃない。
なんでもない、ふとした瞬間。
あぁ、僕はここに今生きてる。
このためにきっと、僕の生きてきた時間はあったんだって……思った。
「この……なんでもない一瞬が……すごく大切な気がして……。」
手元の枯葉をつまみ上げた。
それはただの枯葉。
どこにでもあって、珍しいわけでもなんでもないもの。
だけどそれが宝物になるように、ほんの日常の些細な瞬間が……かけがえのない大切なものになりうるんだ。
その瞬間は生きている人々みんなそれぞれ違って……だから僕は、それを守りたい。
なんでもない、大切なものを。