第237章 憂悶
「両方だ。両方やるぞ。」
的確に瞬時に判断し指示を出すところは変わらないけれど、まさにこの上ないくらいの満身創痍の兵長はもう……人類最強と謳われた以前の鋭く周りを裂くような殺気も闘志も纏っていなかった。
「……一方でアルミンを救助する。超大型の爆発が頼りだ。もう一方でエレンを狙ってうなじも攻撃しろ。二班に分かれて同時にやるぞ。」
――――なんて言った?エレンを狙う……?
「……兵長?」
――――ジークを殺せば地鳴らしは止まる、そういう作戦だったはずなのに……。兵長の指示をうまく飲み込めないまま、なんとかそれを思い留まらせる理由を一生懸命考えた。
「もう……エレンを気にかける猶予はなくなった。いや……そんなもの最初から無かった。」
「……でも――――」
だめ、いやだ。
エレンを殺すなんて。
エレンは私の家族で、守るべき存在で……何よりも一番、大事な存在で。
そんな私情でしかない答えをまさか口に出すことも出来ずに言葉に詰まる。
そこにコニーが私の想いを断ち切るように声を荒げた。
「でも?!何だよ?!ファルコが飛ぶなんて奇跡が起きなければ俺達あそこで死んでただろ?!」
「……あぁ、何も果たせないまま……。」
「……ジャン。」
誰も、考え直そうって、止めてはくれない。
アルミンはここにはいない。
そんな余裕は――――、誰にも、どこにもなかった。
「あの馬鹿に言ってやりたいことはごまんとあった。それに―――――……っクソ……。」
兵長が言い淀んだのはきっと……ナナのことだ。ナナの大事な家族に近しいエレン……それに兵長自身もエレンを大切に思っているのは知ってた。
そのエレンを殺すことは兵長にだって苦しい決断なのだとわかる。
――――――でも、でも。
首を縦に振れない。
だって……エレンは、あんなにも、助けを求めてるように見える。