第237章 憂悶
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ナナとハンジは、似た目をすることがあった。
いつ気付いたんだったか……困難な状況であっても、“ならばどうしようか”、そう次を考えて心を躍らせているような、そんなガキみてぇな目だ。それは楽観的で危機感の欠片もなくて呆れるもんだが……嫌いじゃない。
あいつらがあの目をしていると、どうにかできるかもしれねぇと思えるからだ。
――――だが、やはりどうにもならない状況ってのはある。
絶望、なんて言葉はあまり使わねぇんだが……一瞬その言葉が頭に浮かんだ。なぜなら複数の歴代の九つの巨人に囲まれながら、俺達を大きな影が覆ったからだ。
見上げてみたそこには――――、超大型巨人。
ベルトルトの姿があった。
超大型は容赦なくライナーを掴んですぐさま殺そうとしたが、間一髪ジャンが本体を項から切り離して救い出した。その直後、超大型は長い腕を振り上げて周囲を一掃し、叩き付けた。
全員なんとかその直撃は免れたものの、辛うじて避けた先で身体を強打、あるいは風圧で吹っ飛ばされて意識も危い。
俺も何とかかわしたものの、背中を強打し腹の奥から鉄の味が込み上げ、吐いた。視界が霞む。身体も痛くない場所のほうが少ねぇくらいだ。
――――あの時と同じ。
獣と超大型に前後を挟まれ、投石を受けながらじりじりと目の前の有形物が塵となり果てながら兵士たちの絶望の悲鳴が木霊したあの時。
誰も生きて帰れねぇと思った。
ならば人類のために、――――いや、ナナのために俺がどうなろうともエルヴィンを生きて還す。そう腹を括れたが……今俺は、死ぬわけにはいかねぇんだ。
エルヴィンを失ったあいつの元に帰ってやらねぇと……ナナが……泣くだろ。