第237章 憂悶
「……大丈夫。大丈夫だよ……。おいで、家に帰ろう。」
小さくこくりと頷いて涙を拭う仕草に、胸が締めつけられる。その小さな体を抱き上げて、大切な絵本を彼女の胸元に抱かせる。そしてその柔らかで、太陽の光を弾くような髪をそっと撫でた。
「あと何度か眠って朝が来たら……きっと迎えに来てくれる。大丈夫。君は一人じゃない。君を守ろうと戦ってるんだ。お母さんも……。」
僕にぎゅっとしがみついたその触れ合う部分から、小さな鼓動を感じる。
「――――姉さん………。」
姉さんが傷つくくらいなら……外の世界の全人類をエレン・イェーガーが殺そうと、どうでもいいんだ。
僕にはそんなことどうだっていい。
ただこの腕の中の天使が笑える未来があればそれでいい。その為に必要なのは、顔も知らない外の世界の人間達じゃない。
姉さんと、あのチビだ。
必ず戻って来て。
笑って、『ただいま』ってこの子を抱き締めて。
――――僕に抱かれたまま、愛しいその子はまるで何かを求めるように蒼く遠い空に小さな手を伸ばしていた。