第237章 憂悶
「――――どうしたの?」
「………おかあさん…………。」
「お母さん?が、いた?」
いや、そんなはずない。
ウォール・マリアが崩壊して巨人の群れが島の外に向かって大行進を始めたんだ。外の世界の人間を一掃して、この島を守るっていうなんとも極端なことを考えたエレン・イェーガーって奴の意志だ。ある日突然頭の中に現れてそれを告げていった。
疫病を強毒化して撒いて、この壁の中の人間を間引こうとした腐った連中よりも更に上を行くぶっ飛び具合だ。
エレン・イェーガー……
姉さんが昔働いていた小さな病院の息子じゃないか。それに気付いた時には、僕の背中がぞわっと逆撫でされるように嫌な感覚がしたんだ。どうしてこうも姉さんは厄介な人間と繋がりが深いのか……。
見知っている相手が世界中の人類大虐殺なんて始めようもんなら、姉さんが止めようとしないわけがない。
――――きっとこの局面が終わるまで、姉さんは帰って来ない。だから……ここに現れるはずはないんだけど。じっと遠くを見つめる彼女の目の高さに合わせてしゃがんで、同じ方向を見てみる。
「…いないと…思うけど……。」
「………おかあさん、いたい……?」
「痛い?怪我、でも……したのかな……。何かわかるの?」
大きな目にたちまち涙が込み上げてきた。小さな手が、僕の服をぎゅ、と掴んだ。