第236章 死線
俺の横で、鼻息を荒く殺気と闘志を漲らせて鋭い刃のような目をしてやがるミカサを諭す。
「……俺が万全だとしてもあそこに突撃する選択はしない。だから落ち着け。ミカサ。早まるな。俺が囮になり敵を集団で引き付けるまで――――」
“それは無理だよ兵長……。”
様子を伺っていやがったピークが口を開いた。
“敵の正体がわかった……あれは……歴代の……九つの巨人。”
時折口を開くと思えば、なかなかに最悪な情報のオンパレードじゃねぇか。
“歴代の継承者の意識があるかはわからないけど……、始祖の巨人の力があれば無尽蔵に蘇らせることができるのでしょうね……戦うためだけに生み出された歴戦の巨人兵を。”
「そんなもん……敵うわけが……。」
震える声でコニーが呟く。絶望を誘うには十分な状況だということは、わかった。
“そう。だから悠長なことは言ってられない。私、別にエレンと友達じゃないから。”
そう言い切って、巨人の力を使いこなしているピークは俊敏な身のこなしで歴代の九つの巨人の間をすり抜けながら、エレンの頭部を目指した。
「え?!」
「オイ!!まさか?!」
「ピーク?!」
「……あの野郎……!」
ピークはフロックたちが飛空艇を爆破させるために巻き付けていた大量の爆薬を体に巻き付け、持ち運んでいる。
それをエレンに――――仕掛ける気か。
“どう考えても最初に撃つのはここ!!私の狙いは最初から一つ!!進撃の巨人の首一つ!!”
エレンのむき出しの頸椎に爆薬を巻き付け、起爆スイッチを押すために四足歩行の巨人体のうなじからピーク本体が姿を現した。
「消え失せろ!!悪夢!!」
爆発は、起きなかった。
――――その代わりに大きな肉を裂くような音がしたのは――――、ピークの巨人体を、大きな矛が貫いた音だった。
そこにはいつぞやレベリオで見た――――戦鎚の巨人がいた。