第236章 死線
下方から体を持ち上げるかのように吹き上げる風と、それを切り裂いて襲い来る投石を何とかよけながらエレンに近付く。
立体機動で飛び回ってた空とはまるで違う。
大気、というものの存在を初めて感じた。ライナーがいち早く巨人化し、投石を浴びせやがる獣に仕掛けた。
あっけなくその項を削いで、嫌な予感は的中する。
そこに髭面の姿は無かった。
「……手応えがねぇはずだ。もぬけの殻なら……。」
アルミンに選択肢はなくなった。
こんな骨の山の中で、エレンかジークの本体を探し当てるなんざ不可能だ。
――――なら、もろともに吹き飛ばすしかない。
「腹括るしかねぇよ!!アルミン!!」
ジャンも同様に考えた。誰だってそう思うはずだ。エレンを生きたまま回収するという願いは、どうやら叶いそうにない。
――――殺す。それしかないんだ。
「わかってる!!」
アルミンの表情に、焦燥が滲む。
気持ちは分かる。
俺もまた――――エレンを調査兵団に受け入れる話になった時に一度腹を括ったはずなのにな。ナナの大事な家族同然の存在でさえ、俺は迷わず殺さなくてはならない。刃を鈍らせてはいけないと。
だがもう、ぐだぐだ言っている暇はない。
俺達が1秒迷えば、数百人、いや数千人が死ぬかもしれない。
「一分後にここを吹き飛ばす!!車力の巨人と協力してここから離れて!!」
アルミンの決断は早かった。
が、それに納得していないミカサが牽制するようにアルミンを呼んだ。
「……アルミン。」
その言葉の続きには、『エレンを諦めるの?殺すの?エレンを』そう、アルミンを追及する言葉が伏せてあったに違いない。