第236章 死線
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エレンに随分近付いた。オニャンコポンの操縦は見事だ。
獣の投石をかいくぐりながら、間もなくエレンの上空だという場面で、俺の肩を掴んでアーチが小さく呟いた。
「兵長、なるべく俺の側を離れないで。」
「あ?」
「地鳴らしは止める。あんたも死なせない。」
驚いた。まるでサッシュのようなことを、言いやがる。
「――――は……言ってろ。人の心配より、てめぇの心配をしやがれ。」
「今のあんたよりは戦れますよ。――――俺は絶対に――――」
アーチが言いかけたその瞬間、搭乗口が大きく開かれて風が一気に流れ込む轟音でその先は聞こえなかった。だが、アーチの横顔からその決意は固いと見てとれた。
なんの気の迷いか、サッシュと同じ色だがクセのある髪が揺れるアーチの頭をクシャ、と撫でるとアーチは目を見開いてから、照れたように目を伏せた。
「今だ!!飛べ!!」
オニャンコポンの声を合図にアルミンが飛んで、ミカサやジャン、コニーが続く。俺が飛ぼうとした時、アーチの小さな声がはっきりと聞こえた。
「――――死なせない。あの人のところに返す。」
―――――そうだな。その通りだ。
あいつは俺がいないとすぐ泣きやがるから……。ここで死ぬわけにはいかない。
飛行艇の搭乗口を足で蹴って飛び立つ、その一瞬、そのほんの刹那にナナと目線が交差した。濃紺の瞳は僅かに光を含んでいて……あぁ、涙を堪えてやがるのか。
ほら、やはりすぐ泣くんだ、こいつは。
だが決して弱いわけじゃない、強い意志を感じる目だ。
“無事でいて”
“無事でいろよ”
目は口ほどにとはよく言ったもんだ。
触れなくても、言葉を交わさなくてもわかる。
俺は心の中で必ず生き延びてやると決意を固くして、飛行艇から飛んだ。