第236章 死線
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―――――怖くないと言ったら嘘だ。
飛行艇の搭乗口を開けて、空気の壁のような大きな圧力に体が船内へ押し込まれそうになるのに耐えながら、僕の体は震えていた。
「今だ!!飛べ!!」
オニャンコポンがタイミングを測って、指示をくれる。
見下ろしたエレンの……始祖の体がまだ小さく見える。相当な距離がある。いくら立体機動装置を着けているとしても、本当にそこまで辿り着けるのか?獣の巨人からの投石もある……喰らったら……即死だ。
血液が凍るみたいに、ぞわ、と足元から脳天に向かって逆撫でされたように寒気が襲う。
でも僕が今ここでビビッてたら、一体誰が続くんだ?
エルヴィン団長とハンジ団長の背中に揺れる自由の翼が頭の中に浮かんだ。
なんて迷いが無くて……強いんだろうって……僕には一生、あんな風にはなれないって思っていた。けれど……エルヴィン団長は、ナナさんにその弱さを見せていた。2人が目を合わせたその様子だけで、どれだけ信じあっていたか、相互に支え合っていたのか……新兵の頃の僕でさえ感じた。
ハンジ団長もまた……時に頭を垂れていたところを見たことがある。悲しみ、打ちひしがれながら、僕達をここまで送り届けてくれた。
誰も完璧ではないんだ。
誰も何も怖くない、なんてことないんだ。
――――ただそれを、鼓舞して共に戦う兵士達に、見せなかっただけだ。
僕は何者だ?
僕は……第15第調査兵団団長アルミン・アルレルトだ。
僕には、ミカサがいる。
ジャンがいる。
コニーがいる。
兵長も、アーチさんも、ライナーもピークも……アニも。
続ける背中を、見せるんだ。
ほんの一瞬抱いた恐怖とすくんだ足が驚くほど軽くなって、僕は飛行艇から――――、飛んだ。