第2章 変化
「……あれから、行く宛もないまま馬を走らせて……結局シガンシナ区の、あの小さな病院を訪ねたの。医師としての働き口を知らないか尋ねたら、先生……イェーガー先生が、ぜひうちの医院で力を貸して欲しいと言ってくれた。雑用の手伝いを奥さんがされていたのだけれど、ちょうど奥さんにお子さんが生まれたばかりで、手が足りないからって………。しばらくは医院の部屋を間借りしてお世話になっていた。」
「………そして僕は、命を救ってくれた、君のお母さんを忘れられずに散々探し回って、彼女に辿り着いたんだ。」
リグレットさんはふふっと笑って言った。
「僕も誓おう。君のお母さんは、僕と出会ったから家を出たんじゃない。自分にできることを、やろうとした、意思の強い女性だ。」
リグレットさんは、まっすぐに私を見つめた。
「はい……わかっています。私はよく、見た目が母にそっくりだと言われますが……見た目だけではないんです。意思の強さには自信がある。これもきっと、母譲りです。」
リグレットさんと母は、目を丸くしたあと、2人で幸せそうに見つめあって笑った。
「ロイと……あの人は……元気?」
「ロイもお父様も元気よ。ロイは気の弱い子だけれど、学業に励んでいます。自慢の弟です。」
「あなたは……元気なの?」
「はい……。今は医学を学ぶことと………。」
外の世界への憧れを口にするかどうか、躊躇った。でも、母はきっと理解してくれる。
「私はいつか、壁の外へ行きたいと思っています。」