第2章 変化
医学校の実習以来、現場に立ったことが無かった母が人の命を背負った瞬間。どれほど怖かっただろうか。まだ端くれだが、医療を学ぶ私には痛いほどわかった。
「翌朝、彼が目を開け、私を見つめて『ありがとう』と言ってくれた。私は確信してしまった。私の居場所は王都の屋敷の中ではなく、命のやりとりをするこの場所なんだと。」
母は、自分のやるべきことに気付き、そこに足を踏み出したのだ。
「あの日………私が出て行った日……私は主人に、王都外の病院の視察だけではなく、この有り余った王都の医師団を派遣する仕組みをとるように掛け合ったの。でも……ダメだった。彼は自分の元を離れるつもりだろうと言い張り、医療に携わるどころか、二度と屋敷の外から出さないといった。こんなにも分かり合えないのに、一緒にいるなんて滑稽だと思った……私は………あなた達を残して、屋敷を出た。」
「……使用人たちは、お母様は、他の男と逃げたって………。」
「そうね、そう言われても仕方ないわ。ただ他の男と逃げたんじゃない。自分の夢へ、逃げたの。あなた達を捨てて。これが事実よ。」
私はあの時、母が呟いた「こんな 母で ごめんね」という言葉を思い出した。
母としてよりも、一人の人間としてやるべきことを選んだからだったのだ。