第234章 花弁②
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無数の巨人たちを迎撃するために、アンカーを放った。
立体機動で空を舞うその数秒。
怖くはなかった。
それに――――……なぜか不思議と、こんな僅かな時間に色んな事が頭に浮かんでくる。
ナナってばさ、泣き顔まで可愛くて。
あぁこの顔で縋られたら、エルヴィンもそりゃコロッといっちゃうよね。
――――でも、リヴァイは静かにナナを窘めた。
ナナもまた……私とリヴァイのやりとりを見て、察した。きっと私の決断を肯定しようとしてくれたんだ。
一生懸命、虚勢で固めた敬礼は手が震えていて……あぁやっぱり、本当にナナなら抱けそうだ。
星を見上げた兵舎の屋上で、ナナが去り際に言ったあの言葉。
『ハンジさんは、特別な感情で好きです。』
ずるいよね。それを今持ってくるなんて。
天性の人たらしだと思う。
末恐ろしい子だ、まったく。
ただの上官と部下じゃない、ただの仲良しでもない。
私とモブリットの関係ともまた違う、私と君だけの “なにか”の不思議な関係性は……私にはとても心地の良い、大切なものだった。
特に団長に就任してからは……立場が逆転したみたいに、何度私がへこたれて……ナナに寄りかかっただろう。
元々芯の強い子だったけど、みるみる柔く強く美しく変化していくナナをを見ているのは本当に楽しかった。
――――知ってた?ナナ。
君も本当は私の観察対象だったんだ。
君だけじゃないよ。
君を得た調査兵団がどう変わって行くのかもずっと見てた。
リヴァイに起こった変化も、エルヴィンに起こった変化も……リンファや、サッシュに起こった変化も。
そしてきっと……私も何かしらの影響を受けているんだろうと、思う。