第234章 花弁②
バタバタと慌ただしく飛行艇を離陸させようとする中で、104期の奴らの中に交じって一人、アーチだけが拳を強く握りしめて、ぼそりと呟いたのが聞こえた。
「――――俺が行くべき、だった……。」
サッシュと同じ色の髪をばし、とはたく。
「てめぇにはまだ働いてもらう。ハンジも、それをわかってた。」
「…………。」
「ぐずぐずしてねぇで、もう腹を括りやがれ。」
「………はい……。」
すぐ後ろで、格納庫が巨人の足に踏みつぶされた。
あと数秒、遅ければ……ハンジが足止めをしていなければ……俺達はまとめてここで、仲良くあの世行きだっただろう。
そして、それはエレンによる人類大虐殺を止められないのと同義だ。
飛行艇は海へと着水して、激しくプロペラが回る音とエンジンが震える音がした。
「離陸する!!掴まれ!!」
操縦席に座るオニャンコポンとナナは、共に涙を拭う暇もないまま操縦桿を握っていた。
ガキ共は窓に張りついてハンジの最期を見届けている。
俺はそれを、しなかった。
――――いや、できなかった。
代わりに出てきた言葉は……そういや一度も、あいつに言ったことのない言葉だ。
――――それくらい、当たり前に側にいたんだな、お前は。
「……じゃあな。ハンジ。………見ててくれ。」
この世界の結末を。
お前達が捧げた心臓の――――行く末を。