第234章 花弁②
「わかりたく、ない……!」
「…………!」
「嫌だ……っ嫌です、行かないで………。」
私が堪えきれずにぐしゃぐしゃの顔で泣きながらハンジさんの腕を、子供みたいに引っ張るから……ハンジさんは目を開いて、ぐっとこらえるように眉を寄せた。
「なんとか…っ、別の、方法が……きっと……っ……」
「ナナ、やめろ。」
「………っ……。」
気付けば私の背後にリヴァイ兵士長が立っていて、私の手首を掴んだ。
「……おい、クソメガネ。」
リヴァイ兵士長が何かを咎めるようにかけた声に対して、まるで私の保護者を諭すようにハンジさんは僅かに瞳を揺らしながらリヴァイ兵士長に告げた。
「わかるだろリヴァイ。ようやく来たって感じだ……私の番が。」
リヴァイ兵士長は黙っていた。
それはハンジさんのその表情が、さっきみんなに向けた迷いのない表情とはまるで違ったから。
―――本当は怖いに決まってる。
なんとか自分を奮い立たせようとしているのがわかる。
――――リヴァイ兵士長にだから見せられる顔、なんだ。
「今最高にかっこつけたい気分なんだよ。このまま行かせてくれ。」
ハンジさんを止めて、と願いを込めてリヴァイ兵士長を涙で濡れる目で見つめても、リヴァイ兵士長はただ静かに目を伏せた。
私はすべてを理解した。
――――これがあなた方の、絆と……生き様なんだと。
――――なら、私がそれを乱してどうする。
ハンジさんが安心してその役割を全うできるように振る舞え。そうでなきゃ……団長補佐、失格だ。