第234章 花弁②
「調査兵団団長に求められる資質は、理解することを諦めない姿勢にある。君以上の適任はいない。みんなを頼んだよ。」
「――――………。」
「え………?」
「―――ハンジ、さん……?」
「……な………、それ……どういう……。」
アルミンもミカサも、ジャンもコニーもライナーも……アーチさんも、誰一人その言葉を受け入れられていない。
もちろん、私も。
そんなことはお構いなしに、ハンジさんはははっ、と軽く笑った。
「―――というわけだ。じゃあねみんな。あぁアルミン。リヴァイは君の下っ端だからコキ使ってやってくれ。」
ハンジさんがふふ、と笑みをたたえながらこちらに――――振り返った。
そして私に真っすぐに、目を向けた。
「ナナ。」
「ハンジ、さん……。」
「第15代団長を宜しく頼むよ。彼にもまた……支えが必要だ。」
言葉が出てこない。
なんで、いやだ。
行かないで。
どうして。
最期まで一緒に行くって言ったから……、私はその約束を――――。………言いかけた私を制するようにハンジさんは言った。
「―――調査兵団団長補佐、ナナ・オーウェンズ。君が今すべきことはなんだい?」
「――――……!」
その言葉は、エルヴィン団長のそれと重なる。
「戦えない体を引きずって、私と心中することかい?」
「……っ……、で、もっ……。」
「違うと、分かるだろう?ナナの力を最も生かせるのは、今この時じゃない。――――だからね、ここでお別れだ。」
ハンジさんは優しく笑って、私の頭をぽんぽんと撫でた。
月明りが綺麗だった兵舎の屋上で、何度も話をしては笑い合った。
資料に溢れた研究室で、時間も忘れて巨人について話し明かした。
折れそうな時にいつも、心の整理をさせてくれた。
髪を結い合ったりドレスを選んだり……、一緒のベッドで眠って夜通し笑い合った。
誰にも理解されないであろう狡い私を、肯定してそのままでいいって、言ってくれた。
団長に就任されてからは、時折弱さを覗かせて……頼って、くれた。
思い出せば思い出すほど、手を伸ばさずにいられなかった。