第234章 花弁②
「ッ……!この音は……」
誰もが理解した。
山を踏みならし、木々をなぎ倒し、その灼熱で草木を燃やしながら炎をばら撒いて進む、超大型巨人による……地鳴らしが来たと。
格納庫の外へ飛び出し、目視確認をしに行ったライナーが確かにそれを確認した。
「来た……地鳴らしが……来た!!」
血の気が引く。
どうしよう、どうしよう……このままじゃ、ここでみんな…エレンを止めることもできずに、このまま……。
思わず私は震える手で、リヴァイ兵士長の服の袖を少し、握りしめていた。
その横で行き絶え絶えにフロックさんが何かを呟く。
「行く…な……行かないで……くれ……。」
エレンを止めに行くなと、言っているのだろう。
私は地響きの合間に確かに聞こえた、死にゆく者が行き絶え絶えに祈る最期の言葉を、震えながら聞いていた。
「――――ナナ、ちゃんと側で聞いて来い。あいつの最期の言葉を。」
震える私に静かに、リヴァイ兵士長は言った。
「はい……っ……。」
私が刺したこの人は、間もなく死ぬ。
――――私が殺した。
望む未来が違えば殺し合うのが当然のようなこの世界だとはいえ、仲間を殺した。
――――せめて最期まで、ちゃんと向き合えとあなたは言う。
いつだって厳しくて……この上なく、愛情深い。
リヴァイ兵士長の元を離れてフロックさんの側でもう一度膝をつく。
「島の……みんな……殺…される……。」
血が失われて、呼吸音も段々と小さくなり脈も弱くなっていく。何度も何度も命が消えるところを見て来た。毎回毎回とても怖い。震えるくらい。
でも、私が殺した。
それなのに怖がってどうする?
ちゃんと目を見て、ちゃんと伝えなきゃ。
あなたの死を無駄にはしないって。